相続税・贈与税・遺言他

1.相続税の評価方法

 相続税法では、相続等により取得した財産の価額は、国税庁の「財産評価基本通達」(以下、評価通達)において、その財産の取得時における時価によるもの(時価主義)とされています。

 そして、マンション(一室)の相続税評価額(自用の場合)の算出方法は、以下のとおりとされています。

「区分所有建物の価額(①)+ 敷地(敷地権)の価額(②)」

 ① 区分所有建物の価額
   =建物の固定資産税評価額(注1)✕1.0
 ② 敷地(敷地権)の価額
   =敷地全体の価額(注2)✕共有持分(敷地権割合)

 (注1)1棟の建物全体の評価額を専有面積の割合で接分し各戸の評価額を算定
 (注2)路線価方式又は倍率方式で評価

2.マンション節税と国税当局の対応

 相続税の計算は上記の取扱いにより、預金、株式、現金等は時価のままですが、家やマンションの相続税評価額は時価に比べかなり低くなります。

したがって、現金よりもマンションを相続した方が時価 (市場価格)と相続税評価額の開きが大きく節税効果も大きくなります。特にタワーマンションの場合、容積率を上限近くまで活用することなどから市場価格は高額のままで売買される反面、室数が多いため相続税評価額がさらに大幅に下がることがあります。この乖離が大きいことから、行き過ぎた節税対策として問題視されてきました。

 一方で、市場価格と相続税評価額が大きく乖離ているケースでは、相続税申告後に国税当局から、相続税評価額ではなく鑑定価格等による時価で評価し直して課税処分をされ、訴訟に至るケースも発生しています。これは、評価通達に沿って評価すると著しく不適当と認められる場合に限り国税庁長官の指示を受けて評価する、「評価通達6項(この通達の定めにより難い場合の評価)」を適用して行っていますが、昨年4月の最高裁判決では、評価通達によらない評価は合理的な理由がない限り平等原則に反すると指摘があり、マンションの市場価格と相続税評価額の乖離は、予見可能性の観点からも評価方法の見直しにより是正することが急務とされています。

1.改正の内容

 「高齢世代から若年世代への資産移転を促し、教育や結婚・子育て世代を支援する」という政策目的の下、これらの資金援助に贈与税がかからない制度があります。
 この制度では、贈与された金銭を信託や専用口座で一定期間管理し、認められる資金使途(※)で支出した後の残高に贈与税が課税されます。
 富裕層の節税策の一つとして利用されることが多いことから、今回改正が行われました。

(1)相続発生時の取扱い

 制度利用中に贈与者が亡くなった場合、残額を相続財産に加えて相続税が加算されます。
 教育資金の一括贈与について、これまで受贈者が23歳未満の場合などは、残額を相続財産に加算する必要はなかったのですが、相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者の年齢等にかかわらず、残高を相続財産に加算することになりました。
 令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る相続税について適用されます。

(2)贈与税の取扱い

 「教育資金」「結婚・子育て資金」の両制度とも、一定の残高については、贈与税の「一般税率」が適用されることになりました(※下図参照)。
 令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る相続税について適用されます。

 

(3)適用期間の延長

  令和5年3月末までだった適用期間が延長されました。
   ・教育資金の一括贈与:令和8年3月31日まで
   ・結婚・子育て資金の一括贈与:令和7年3月31日まで

※ 資金の使途として認められる支出の例

教育資金の一括贈与
学校等に対する支出
 
入学金、授業料、保育料、施設設備費、試験料、学用品の購入費、修学旅行費、学校給食費
学校等以外に対する支出
 
学習塾やそろばん塾などの教育、水泳や野球などのスポーツ、習い事の月謝・施設使用料、
 業者に支払う教科書代や制服の購入費用で学校等が必要と認めた物

結婚・子育て資金の一括贈与
結婚に関係する支出(300万円が限度)
 挙式費用、衣装代等の婚礼費用、新居費用、転居費用
妊娠、出産、育児に関係する支出
 不妊治療・妊婦検診費用、分べん費等・産後ケア費用、この医療費、保育料

 

 

相続時精算課税が使いやすくなりました

1.制度の概要

贈与税の課税方法には、①「暦年課税」と②「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件に該当する場合に「相続時精算課税」を選択することができます。

①暦年課税  贈与税は、一人の人が1月1日から12月31日までの1年間に複数の人から贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。したがって、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません(贈与税の申告不要)。
ただし相続発生時より3年以内に受けた被相続人からの贈与財産は相続財産に加算されます。
(令和5年度 改正税法により、令和6年1月1日以後の贈与について加算期間が7年に延長されました)

相続時精算課税 相続時精算課税とは、贈与税・相続税を通じた課税です。
原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳(令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」)以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
 「相続時精算課税」を選択した贈与者ごとにその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2,500万円の特別控除額を控除した残額に対して贈与税がかかります。
(令和6年1月1日以後の贈与については、110万円の基礎控除を控除することができます)

 この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、①「暦年課税」へ変更することはできません
他の贈与者からの贈与財産には「暦年課税」を選択できます。

 前年以前にこの特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2,500万円からその金額を控除した残額がその年の特別控除限度額となります。

また、この制度の贈与者である父母または祖父母などが亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。

なお、相続時精算課税を適用するには、一定の要件の下、贈与税の申告期限(翌年2月1日~3月15日)までに贈与税の申告書とともに「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出する必要があります。。

2.改正の内容

(1)110万円の控除枠を新設

相続時精算課税で受けた贈与については、暦年課税の基礎控除とは別に、課税価格から110万円を控除できるようになりました。
この110万円の贈与額は、確定申告をする必要がなく、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算する必要もありません。(相続時精算課税を選択している複数の贈与者から贈与を受けた場合、110万円控除は、それぞれの贈与額により按分します
 適用時期:令和6年1月1日以後に受ける贈与財産に係る相続税または贈与税に適用

 

 

計算例:1~3年まで毎年、父と母から200万円ずつ贈与を受けていた子が、父からの贈与に相続時精算課税を選択し、4~6年の間に毎年父から1000万円と母から200万円ずつ贈与を受けた後、7年目(令和12年)に父が亡くなり4000万円の財産を相続する場合

1年目:暦年課税 父母からの贈与の課税される金額(合計400万円ー基礎控除110万円=290万円)
     [贈与税額] 290万円 × 税率15%ー控除額10万円 = 33.5万円
2年目:暦年課税 同上 (父の贈与分の税額は33.5×1/2=16.75万円)
3年目:暦年課税 同上

4年目:相続時精算課税 父の贈与の課税される金額(1000万円ー110万円ー特別控除額890万円=0)
    暦年課税 母の贈与の課税される金額(200-110=90)
     [贈与税額] 90万円 × 税率10%= 9万円

5年目:相続時精算課税 父の贈与の課税される金額(1000万円ー110万円ー特別控除額890万円=0)
    暦年課税 母の贈与の課税される金額(200-110=90)
     [贈与税額] 90万円 × 税率10%= 9万円

6年目:相続時精算課税 父の贈与の課税される金額(1000万円ー110万円ー特別控除額720万円=170万円)
     [贈与税額] 170万円 ×税率(一律) 20% = 34万円
    暦年課税 母の贈与の課税される金額(200-110=90)
     [贈与税額] 90万円 × 税率10%= 9万円

7年目:相続税の計算
    相続財産4000万円+贈与財産(200万円×3年-100万円※)+(1000万円ー110万円)×3年=7170万円
    7170万円ー控除額(3000万円+600万円×2人)=2970万円
    2970万円×税率15%ー控除額50万円=395.5万円
    納付済の贈与税分を控除 395.5万円ー(16.75万円×3年+34万円)=311.25万円

※ 令和5年度 改正税法により、令和6年1月1日以後の相続前贈与について加算期間が7年に延長され、延長された4年間は100万円を控除可になりました
     
    

参考:贈与税率の速算表 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁 (nta.go.jp)
   相続税率の速算表 No.4155 相続税の税率|国税庁 (nta.go.jp)
   相続税の申告の仕方 E01.pdf (nta.go.jp)

 

相続前贈与の加算期間が3年⇒7年に延長

暦年課税で贈与を受けた財産の合計から年間110万円までは無税ですが、駆け込み贈与による相続税回避を防止するため、相続開始前3年以内に受けた贈与は相続税に加算されることになっていました。今回の改正で、加算する期間が相続開始前7年間に延長されました。

延長された4年間は100万円を控除可

改正に伴い、過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減するため、延長された4年間に受けた贈与のうち、総額100万円までは相続財産に加算されません。

適用期間

令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されます。
そのため、相続前贈与の加算期間は、令和9年以後の相続から順次延長され、令和13年以後の相続で完全移行されます。(下図参照)

特例承継計画の提出期限が、令和6年3月31日まで1年延長されました。

● 適用期限が令和5年12月31日まで2年延長されるとともに、受贈者の年齢要件が18歳以上(改正前:20歳以上)に引き下げられました。

● 経過年数基準が廃止され、新耐震基準に適合するもの(登記簿上の建築日付が昭和57年以降)であることに一本化されました。


注)年齢要件は、令和4年4月1日
  それ以外は、令和4年1月1日
以後に贈与により取得をする住宅取得等資金に係る贈与税について適用されます。

● 適用期限が令和5年12月31日まで2年延長されるとともに、受贈者の年齢要件が18歳以上(改正前:20歳以上)に引き下げられました。

● 適用対象となる既存住宅用家屋の要件について、建築後20年(耐火建築物25年)の経過年数基準が廃止され、新耐震基準に適合するもの(登記簿上の建築日付が昭和57年以降)であることに一本化されました。

● 非課税限度額は住宅用家屋の区分に応じ、以下の金額とされました。

①省エネルギー性、耐震性、又はバリアフリー性を備えた住宅 1,000万円
②上記以外の住宅用家屋 500万円

注)年齢要件は、令和4年4月1日
  それ以外は、令和4年1月1日
以後に贈与により取得をする住宅取得等資金に係る贈与税について適用されます。  
 

1 法人版事業承継税制の後継者要件緩和

下記の場合は、後継者が相続開始直前に役員でなくても、制度の適用を受けることができるようになりました。
(一般措置は①の場合のみ)
① 被相続人が70歳未満(改正前:60歳未満)で死亡した場合
② 後継者が中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の確認を受けた特例承継計画に特例後継者として記載されている者である場合

2 個人版事業承継税制の対象資産の範囲拡大

適用対象となる事業用資産の範囲に、被相続人または贈与者の事業の用に供されていた乗用自動車で青色申告書に添付される貸借対照表に計上されているもの(取得価額500万円以下の部分に対応する部分)が加えられました。

3 農地等に係る納税猶予等の利子税の特例

利子税を全額免除する特例について、適用期限が令和8年3月31日まで5年間延長されました。

4 特定の美術品に係る納税猶予制度

現代美術品についても、文化資源として美術館での公開が促進されるよう、登録有形文化財登録基準の改正を前提に、適用対象となる特定美術品の範囲に製作後50年を経過していない美術品のうち一定のものが加えられます。

1 改正の内容

① 贈与者死亡時の教育資金残額を相続財産加算
教育資金の一括贈与について、金融機関との契約終了前に贈与者が死亡した場合、受贈者が以下の場合を除き、残額を受贈者が贈与者から相続等により取得したものとみなされます。
 ・23歳未満
 ・学校等に在籍している
 ・教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している
 

② 2割加算を適用
贈与者から相続等により取得したものとみなされる残額について、贈与者の子以外の直系卑属(孫など)に相続税が課される場合には、相続税額の2割加算の対象とされます。
 

③ 受贈者の年齢要件を引き下げ
結婚・子育て資金の一括贈与について、民法改正による成年年齢引下げに伴い、受贈者の年齢要件の下限が18歳以上(改正前:20歳以上)に引き下げられます。
 
 
2 適用期日

上記①②の改正は令和3年4月1日以降に信託等により取得する信託受益権等について、
   ③の改正は令和4年4月1日以降に信託等により取得する信託受益権等について
適用されます。

「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」は、父母や祖父母などから住宅の新築・取得、増改築等のための金銭の贈与を受けた場合、一定の非課税限度額まで贈与税が非課税となる制度です。

 非課税限度額は住宅の種類及び契約締結日に応じて変わり、また、新築等の金額に係る消費税率が10%である場合には、非課枠額が上乗せされます。
 例えば、消費税率10%で一定の省エネ基準などを満たす住宅を新築する場合、
令和2年4月1日~3年3月31日の間に契約を締結すると非課税枠は1,500万円ですが、
令和3年4月1日~3年12月31日の間に契約を締結すると非課税枠が1,200万円となる予定でした。

 この制度を利用するための受贈者の主な要件
・贈与を受けた年の1月1日に20歳以上
・贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下
・自己の親族などから住宅用の家屋の取得をしたものではない
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をする

改正の内容
1 非課税限度額の引上げ(据え置き)
 令和3年4月1日~12月31日までの間に住宅用家屋の新築等に係る契約を締結した場合における非課税限度額が、令和2年4月1日~令和3年3月31日までの間の非課税限度額と同額まで引き上げられました。

2 床面積要件の緩和
 合計所得金額が1,000万円以下の者について面積要件を緩和し、床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅についても適用できるようになりました。
(改正前:取得要件 2,000万円以下・面積要件(下限) 50㎡以上)

適用期日
 令和3年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用されます。

1⃣ 住宅所得等資金の贈与税の非課税措置

(1)非課税限度額の据え置き
住宅用家屋の新築等に係る契約を、令和3年4月1日から同年12月31日までに締結した場合の非課税限度額が引き上げられます。改正後は、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの非課税限度額と同額に据え置きとなります。

●住宅取得等資金に係る改正前後の非課税限度額

契約締結日令和2年4月1日~令和3年3月31日令和3年4月1日~令和3年12月31日
消費税率10%適用住宅1,500万円1,500万円
それ以外の住宅1,000万円1,000万円

(2)床面積要件の緩和
対象となる住宅用家屋に係る床面積要件の下限について、改正前では50㎡のところ、改正後は、贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下であれば、40㎡に引き下げます。消費税率10%適用住宅以外の住宅用家屋であっても、床面積要件の下限引き下げの対象になるとのことです。

●適用時期…令和3年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税
 

2⃣ 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置

教育資金、結婚・子育て資金それぞれの非課税措置について、適用期限を令和5年3月31日までの2年延長します。加えて、以下の措置を講じます。

(1)贈与者死亡時における相続財産の対象範囲拡大
教育資金の一括贈与について、贈与者死亡時に贈与した資金のうち未使用の残額がある場合(死亡日に受贈者が、23歳未満、学校等在学中、教育訓練受講中のいずれかの場合を除く)、現行では死亡前3年以内の贈与に係る残額が相続税の対象ですが、改正後は、すべての贈与に係る残額が相続税の対象となります。

(2)相続税額の2割加算の適用
教育資金、結婚・子育て資金とともに、贈与者死亡時、子以外の直系卑属(孫等)に贈与した資金のうち未使用の残額がある場合、残額に対応する相続税額を2割加算の対象に加えます。

●教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る改正後の対象範囲等

一括贈与教育資金結婚・子育て資金
相続税の対象となる贈与者死亡時の残額全ての贈与全ての贈与
相続税額の2割加算適用あり適用あり


●適用期限…令和3年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等

例 1/1に夫が死亡、法定相続人が3人(妻と子供2人)の場合は
財産と負債を計算し、差額が4,800万円《3,000万円+(3人×600万円)》を超えていれば、10/1までに相続税の申告が必要です。

海外にある財産も申告の対象?

居住無制限納税義務者非居住無制限納税義務者に該当すれば、国内・国外を問わず、すべて日本の相続税・贈与税の申告の対象となります。

(1)居住無制限納税義務者
相続または遺贈により財産を取得した次に揚げる個人で、取得した時において国内に住所を有する者をいいます(相法1の3①一)。
①一時居住者でない個人
②一時居住者

(2)非居住無制限納税義務者
相続又は遺贈により財産を取得した次に揚げる個人で、取得した時に国内に住所を持たない者をいいます(相法1の3①二)。
①日本国籍を持つ個人
(イ)相続開始前10年以内に国内に住所があった者
(ロ)相続開始前10年以内のいずれの時においても、国内に住所がなかった者(被相続人が一時居住被相続人または非居住被相続人である場合を除く)
②日本国籍を持たない個人(被相続人が一時居住被相続人または非居住被相続人である場合を除く)

遺留分とは何か
~ 遺留分の算出方法 ~

兄弟姉妹以外の法定相続人は、相続の開始後、相続財産の一定割合を確保しうる地位を有しており、これを遺留分といい、被相続人がこれを侵害するような贈与や遺贈をしたときは、遺留分権利者はその効力を奪うことができます。これを遺留分減殺請求権といいます。

■ 遺留分の割合
全体としての遺留分の割合
①直系尊属のみが相続人であるときは(例えば父母のみが相続人)、相続財産の3分の1が遺留分です。
②そのほかの場合には相続財産の2分の1が遺留分です(民1028)

被相続人が債務だけ残して死亡したとき
~ 相続の放棄 ~

相続放棄の手続
相続の放棄をする場合には、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にその旨を家庭裁判所に申し出なければなりません(民915①、938)
この3カ月の期間を熟慮期間といいますが、相続財産の全貌がわからないケースの場合には、期間の延長を家庭裁判所に請求することができます。
なお、限定承認の場合には、相続人全員が限定承認する必要がありますが、相続の放棄は、単独でも認められます。

財産と債務のどちらが多いかわからないとき
~ 限定承認はどんなときにするべきか ~

民法では「限定承認」の制度が設けられています。
相続財産より債務が多い場合には、相続人は弁済する責任を負いません。

■ 限定承認の手続き
裁判所への申述
限定承認を受ける場合には、相続人全員が、自己のために相続の開始があったことを知った日から、3カ月以内に相続財産の目録を作成して家庭裁判所に申述しなければなりません(民923、924)
したがって、相続人が数人いる場合に、一人でも限定承認に賛成しなければ、ほかの相続人は限定承認することができません。
そのため、多額の債務が予想される場合は、相続放棄をすることも考えた方がよいでしょう。

相続財産を増やすのに協力した人の相続分
~ 「寄与分」とはどんな時に認められるのでしょうか ~

■ 寄与分が認められる場合
寄与分が認められるのは「被相続人の事業についての労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養の看護などで、被相続人の財産の維持または増加につき特別に寄与した者」とされています。
この典型的な例として、被相続人に協力して、長い間、農業や中小企業の経営などの家業に、適切な対価を得ることなく積極的に取り組んできた子供や配偶者などが該当するものと思われます。
ただし、親子、親族として当然なされるべき協力や扶助・扶養の程度では寄与分が認められるような特別な寄与には該当しません。

■ 寄与分がある場合の相続分
寄与した者がいる場合の各人の相続分は、相続財産から、寄与分を差し引いて、みなし相続財産を求め、これに法定相続分(または指定相続分)割合を乗じて算定します。
そして、寄与した者の相続分は各人の相続分に寄与分を加えたものとなります。

生前贈与を受けていた相続人の相続分
~『特別受益者』の相続分 ~

■ 特別受益者がいる場合の相続分

特別受益者が得た贈与や遺贈の分を、特別受益として相続財産に組入れ(これを「特別受益額の持ち戻し」といいます)、「みなし相続財産」とします。
「みなし相続財産」をベースに法定相続分または指定相続分に従って各人の相続分を算定します。
そして、特別受益者は、その相続分から特別受益額を差し引いた残額が相続分となるのです。

なお、特別受益の価額が本来の相続分に等しいか、または超える場合には特別受益者の相続分はないことになります。

 

Q:行為能力が制限されている相続人がいた場合は

A:後見人・保佐人を選出します

■ 成年被後見人
精神障害のために合理的な判断ができない状況にある人(成年被後見人)が相続人となった場合には、次に掲げる人がその相続手続をすることになります。

①相続開始前に成年後見人が選任されている場合

選任されている成年後見人

②成年後見人が選任されていない場合

家庭裁判所が選任した成年後見人

ただし、
成年被後見人と成年後見人との間で利益が相反する場合には、特別代理人の選任が必要となります。
成年後見監督人がある場合には、成年後見監督人が成年被後見人を代理することになります。

 

■ 被保佐人

被保佐人が相続人となった場合には、次に掲げる人が被保佐人の相続手続をすることになります。

①相続開始前に保佐人が選任されている場合

選任されている保佐人(同意権または代理権)

②保佐人が選任されていない場合

家庭裁判所が選任した保佐人

ただし、保佐人は複数置くことも可能

Q:被相続人の生死不明時の相続はどうするか

A:「失踪宣告」の手続きをします

失踪により生死不明の状態が、一定期間(普通失踪の場合7年以上、危難失踪の場合1年以上)継続した場合には、失踪者と利害関係がある者は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることが認められています。そして家庭裁判所は申立てにより公示催告を行って、失踪宣告について審判します。

失踪宣告を受けた人は法律上死亡したものとみなされ、相続が開始します。

民法(相続関係)の改正に伴う見直し
①相続税における配偶者居住権等の評価額を次のとおりとします。
イ 配偶者居住権
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
ロ 配偶者居住権が設定された建物(以下「居住建物」という。)の所有権
建物の時価-配偶者居住権の価額
ハ 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
土地等の時価-土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
ニ 居住建物の敷地の所有権等
土地等の時価-敷地の利用に関する権利の価額

(注1)上記の「建物の時価」及び「土地等の時価」は、それぞれ配偶者居住権が設定されていない場合の建物の時価又は土地等の時価とします。
(注2)上記の「残存耐用年数」とは、居住建物の所得税法に基づいて定められている耐用年数(住宅用)に1.5を乗じて計算した年数から居住建物の築後経過年数を控除した年数をいいます。
(注3)上記の「存続年数」とは、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める年数をいいます。
(イ)配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身の間である場合配偶者の平均余命年数
(ロ)(イ)以外の場合遺産分割協議等により定められた配偶者居住権の存続期間の年数(配偶者の平均余命年数を上限とします。)
(注4)残存耐用年数又は残存耐用年数から存続年数を控除した年数が零以下となる場合には、上記イの「(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数」は、零とします。

②物納劣後財産の範囲に居住建物及びその敷地を加えます。

③配偶者居住権の設定の登記について、居住建物の価額(固定資産税評価額)に対し1,000分の2の税率により登録免許税を課税します。

➃特別寄与料に係る課税について、次のとおりとします。
イ 特別寄与者が支払いを受けるべき特別寄与料の額が確定した場合には、当該特別寄与者が、当該特別寄与料の額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税を課税します。
ロ 上記イの事由が生じたため新たに相続税の申告義務が生じた者は、当該事由が生じたことを知った日から10月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。
ハ 相続人が支払うべき特別寄与料の額は、当該相続人に係る相続税の課税価格から控除します。
ニ 相続税における更正の請求の特則等の対象に上記イの事由を加えます。

⑤遺留分制度の見直しに伴う所要の措置を講じます(所得税についても同様です。)。

⑥その他所要の措置を講じます。

民法(成年年齢)の改正に伴う見直し
【令和4年4月1日以降に相続若しくは遺贈又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用】

(1)相続税の未成年者控除の対象となる相続人の年齢を18歳未満(現行:20歳未満)に引き下げます。(相法19の3)

(2)次に掲げる制度における受贈者の年齢要件を18歳以上(現行:20歳以上)に引き下げます。
①相続時精算課税制度(相法21の9)
②直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例(措法70の2の5)
③相続時精算課税適用者の特例(措法70の2の6)
➃非上場株式等に係る贈与税の納税猶予制度(特例制度についても同様とします)

結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置の見直し
【次の措置を講じた上、適用期限を2年延長】

(1)信託等をする日の属する年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、当該信託等により取得した信託受益権等については、本措置の適用を受けることができないこととします。
(注)上記の改正は、平成31年4月1日以後に信託等により取得する信託受益権等に係る贈与税について適用します。

教育資金の一括贈与非課税措置の見直し
【次の措置を講じた上、適用期限を2年延長】

(1)信託等をする日の属する年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、当該信託等により取得した信託受益権等については、本措置の適用を受けることができないこととします。
(注)上記の改正は、平成31年4月1日以降に信託等により取得する信託受益権等に係る贈与税について適用します。

(2)教育資金の範囲から、学校等以外の者に支払われる金銭で受贈者が23歳に達した日の翌日以後に支払われるもののうち、教育に関する役務提供の対価、スポーツ・文化芸術に関する活動等に係る指導の対価、これらの役務提供又は指導に係る物品の購入費及び施設の利用料を除外します。ただし、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用は除外しません。
(注)上記の改正は、令和元年7月1日以後に支払われる教育資金について適用します。

(3)信託等をした日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合(その死亡の日において次のいずれかに該当する場合を除く。)において、受贈者が当該贈与者からその死亡前3年以内に信託等により取得した信託受益権等について本措置の適用を受けたことがあるときは、その死亡の日のおける管理残額を、当該受贈者が当該授与者から相続又は遺贈により取得したものとみなします。
①当該受贈者が23歳未満である場合
②当該受贈者が学校等に在学している場合
③当該受贈者が教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合
(注1)上記の「管理残額」とは、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額のうち、贈与者からその死亡前3年以内に信託等により取得した信託受益権等の価額に対応する金額をいいます。
(注2)上記の改正は、平成31年4月1日以後に贈与者が死亡した場合について適用します。ただし、同日前に信託等により取得した信託受益権等の価額は、上記(注1)の信託受益権等の価額に含まれないものとします。
➃教育資金管理契約の終了事由について、受贈者が30歳に達した場合においても、その達した日において上記(3)②又は③のいずれかに該当するときは教育資金管理契約は終了しないものとし、その達した日の翌日以降については、その年において上記(3)②若しくは③のいずれかに該当する期間がなかった場合におけるその年12月31日又は当該受贈者が40歳に達する日のいずれか早い日に教育資金管理契約が終了するものとします。
(注)上記の改正は、令和元年7月1日以後に受贈者が30歳に達する場合について適用します。

参考:文部科学省「2019年度 文部科学省税制改正の概要」P.2
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/zeisei/1412046.htm

 

個人事業者の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度
【平成31年1月1日から令和10年12月31日までの贈与について適用】

認定受贈者(18歳(令和4年3月31日までの贈与については、20歳)以上である者に限る。以下同じ。)が、平成31年1月1日から令和10年12月31日までの間に、贈与により特定事業用資産を取得し、事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、その認定受贈者が納付すべき贈与税額のうち、贈与により取得した特定事業用資産の課税価格に対応する贈与税の納税を猶予します。

個人事業者の事業用資産に係る相続税の納税猶予制度
【平成31年1月1日から令和10年12月31日までの相続等について適用】

認定相続人が、平成31年1月1日から令和10年12月31日までの間に、
相続等により特定事業用資産を取得し、事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、その認定相続人が納付すべき相続税額のうち、相続等により取得した特定事業用資産の課税価格に対応する相続税の納税を猶予する。

自己、自己の配偶者に加え、3親等内の親族、関係する同族会社・一般社団法人等の所有する家屋に居住している者が除外されます。

また、相続開始時に居住していた家屋を「相続前」に所有していた者が除外されます。

昨今、相続登記をしない者が増えており、それが空き家問題等の一因になっていると指摘されていました。
そこで法務省は、相続に係る手続の負担を減らし不動産登記を促進するため、「法定相続情報証明制度」を創設しました。

同制度に係る不動産登記規則の改正省令が4月17日に公布、5月29日に施行され、
全国の登記所(法務局)で「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」の入手申出ができます。

以前は、相続登記や被相続人の預金の払戻し手続等の際、その都度戸籍書類一式を用意する必要がありましたが、新制度では法務局で一定の手続きをすることで、無料で必要な分だけ取得できる「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」を各種相続手続きで利用できるようになりました。

 

非上場株式の評価については、その評価会社の規模に応じて「大会社」、「中会社」、「小会社」に区分され、それぞれ採用できる評価方法が定められています。

大会社の判定基準として従業員数が「100人以上」から「70人以上」に引き下げられます(評基通(案)178)。

これまでより大会社に該当しやすくなり、類似業種比準方式をとりやすくなります。

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